走り高跳びの力学と身体の使い方①
随分以前ですが、NHKで「ミラクルボディ」という一流アスリートのパフォーマンスの秘密に最新の技術を使って迫っていくドキュメントのシリーズがありました。
身体の使い方というテーマで、イトーズ・ピラティス的に考えると、すごく参考になる回があって、それを思い出したので、内容の記憶と独断と偏見を織り交ぜてちょっと書いてみようと思います。
そして、その上にタイムリーというか、ちょうどこのブログを作成している最中に嬉しいニュースが。
それは筑波大出身の戸邉直人選手がドイツで行われたインドアの国際大会で日本記録2m35cmを樹立したというニュースです。
今季世界最高の記録でもありますので、オリンピックや世界選手権でも十分メダルが狙える記録です。
というわけで、今回は走り高跳びについての回です。リンクは以下で見てください。
さて、概要をコピペで紹介すると(下線部分はNHKスペシャルのHPからそのままコピー)、
トップアスリートの能力に特撮を駆使して迫り、人間の可能性を探るシリーズ。
第3回は「跳ぶ」。
走り高跳びで北京五輪の金メダルを争う2人のアスリートを追う。
一人はアテネ五輪金メダリスト、ステファン・ホルム(スウェーデン)。走り高跳びの選手としては小柄な181センチ。しかし、猛練習と研究で頂点を極めた“努力の王者”だ。
もう一人は、世界陸上でホルムを破ったドナルド・トーマス(バハマ)。陸上を始めて、わずか1年半。「あれでなぜ跳べるのか」と、誰もが首をひねる我流のフォームで世界を制した“ミラクル・ジャンパー”だ。
努力の王者・ホルム対天才・トーマス。2人の跳躍をハイスピード映像を手がかりに徹底比較、人はどこまで高く跳べるのか、その可能性を探っていく。
さて、スウェーデンのホルムは身の丈181cmの高跳び選手って、少なくとも国際級の選手としてはめちゃくちゃ小さい。
一方で、バハマのトーマスは身長は通常の高跳び選手なみだが、高跳びをやり始めて初めてたったの1年半、しかも跳び方は我流であんまり理にかなったものとは言えないのに、世界チャンピオンになってしまった。
この対比が面白かったのですが、
印象的だったのは、背の低いホルムは相当な専門的なトレーニングを積んできたことです。
どのようなトレーニングを積んできたのかといえば、いわゆるジャンプに特化した、プライオメトリック的なトレーニングを中心にかなり激しいトレーニングをやってきているようでした(下の動画参照)。
また高跳びの技術には「起こし回転」という力学的なモデルがあります。
上の図のように、棒を地面に対して斜めに投げると、反発した棒はひるがえって、高く上がりながら、バーを越えるように飛んでいきます。
番組では筑波大学の村木先生が実演されています。グラウンドも懐かしい。
こちらが→ホルムのトレーニングと走り高跳びの技術について村木先生も説明されている動画(ミラクルボディー ドイツ語?版、ドイツ語が分からなくても、結構わかると思いますのでご参考までに。)
まさに背面跳びの力学的な原理ですね。
これを人間に置き換えると、踏切の瞬間は、以下の写真のような技術。
つまり、バーからやや離れた位置で斜め後ろに身体を倒して踏み切る形です。
ホルム はこの技術理論を忠実に再現するように体力トレーニングとともに技術を長年磨いてきたといいます。
というか、おそらく多くの高跳び専門の選手はこれを理想の技術としているんではないでしょうか。
激しいトレーニングの結果、特に跳躍に重要なアキレス腱は太くなり、非常に硬く適応しています。
一方のトーマスはどうかというと、もとバスケットのバハマ代表にも選ばれた選手で、その跳躍力に目を付けた人に勧められ、走り高跳びに転向してなんと一年半。
それで世界選手権ではホルムを破って2m35cmで優勝してしまったわけです。
アキレス腱はアフリカ系の選手に特有と思われる長い腱。
ここでキーポイントとなるのが、走り高跳びのトレーニングは1年半ですが、バスケット選手として培ってきたジャンプ力。
番組で分析されたトーマスのフォームは、まず踏切はバスケットのダンクシュートの踏切りとほぼ同じ、踏切位置もバーにかなり近づいたものでした。
つまり、バスケットで培った身体の使い方そのものをそのまま持ってきたからこそ、出すことができた記録だといえます。
また空中姿勢は、近い踏切りですから、そのまま行けばすぐにバーに身体がぶつかってしまうため、バーの近くで脚をばたつかせて身体の方向転換をさせるという非常に珍しい技術でした。
高跳びの専門家からみれば、無駄の多いめちゃくちゃな技術です。
番組での解釈はトーマスは脚力だけで跳んでいると結論付けています。これに対する私の解釈は若干違うんですが、これについてはあとで。
で、
「トーマス選手のめちゃくちゃな技術を、正統派の力学的に正しいものに矯正すれば、とんでもない世界記録が生まれるかもしれない!!」
と、おそらく誰でも考えるでしょう。
でも、そうはいかないのが面白いところなんです。
実際、トーマスも同じことを考え、フォームの改良を試みます。
踏切位置を変え、体の使い方を変えていきます。
さて、何が起こったでしょうか?
結果と、独断と偏見の考察は次回に。