アサファパウエル:ランニングと大腰筋
少し以前の話になりますが、
スーパーアスリートの身体を徹底的に調査する番組がありました。
NHKのスーパーボディーという番組だったと思います。
非常に興味深い番組でした。とくに注目に値するのが、100mの元世界記録保持者のアサファパウエル選手について特集していた回でした。
いろいろ調べたその中で、特に興味深かったのが、腹部MRIの画像でした。
ネットで探してみたらありました。こんな画像です。
左がパウエルで、隣の画像は、これまた日本の一流選手の朝原選手の同じ部分の画像です。
赤い部分が大腰筋という、主にふとももを引き上げる時に働く筋肉です。
速く走るためには非常に重要なんだろう、ということが、これだけ見るだけでも良くわかります。これは短距離に限った話ではなく、長距離でも同じです。
それにしても、比較対象が一般人ではなく、日本の一流選手、しかも、この歴然とした差がある、ということが、さらなる驚きです。
これを見て、朝原選手自身も唖然としていたそうです。
おそらく、これを見た短距離選手を含めて、ランニングをしている人たちも、やっぱり「大腰筋を鍛えれば速くなるに違いない!」「大腰筋を鍛える運動はどんな種目?」ってなるでしょう。
最近は、一般の人が読むような本にも大腰筋、大腰筋、って書いてありますからね。
でもちょっと待った!!と言いたい。
しかし、大腰筋の重要性は、とくに専門家の間では相当前からわかっていましたし、私自身も現役時代から知っていました。
私が翻訳にかかわった本(一応宣伝 笑)大修館書店の「中長距離ランナーの科学的トレーニング」にも載っています。日本語版が出版されたのが2001年で、原著は1992年で相当前です。
これが証拠。
朝原選手だって、日本の一流選手です。国際的にも決して低い評価ではない選手です。
朝原選手は、この番組が調査するまで、大腰筋が重要だということを知らなくて、それに関するトレーニングをしていなかったんでしょうか?
真実はわかりません。
勝手な推測かもしれませんが、でもそんなことはありえないと私は思います。
少なくとも誰よりも研究し、激しいトレーニングを積んでいたはずです。
特に、トップ選手の間の差というのは、わずかなものだと、よく言われます。
にもかかわらず、この歴然とした差。
でもわずかなものから、生み出されたこの差ということも考えられますね。
いずれにしても、これをどう説明すれはいいんでしょうか?
少なくとも大腰筋のトレーニング不足という理由では、どうしても説明がつかないと思いませんか?
通常、その部分が強いことが必要だけど、それに対して弱いから、細いから、その場所を鍛える種目で、その動作に近いトレーニングでその筋を一生懸命鍛える。
ということになります。
理屈としてはわかります。決してすべて間違っているとは思っていません。
でも、その結果として、この差だったとしたら、どうでしょうか?
そんな単純なことではないということがわかるでしょう。
その理屈にたどり着く前に何かが抜け落ちているということがわかります。